諸熱のもつれ(R18)

したい。真冬になる前に!

書類を整理しながら尋ねる。
「どう?」
「無理。近郊で討伐がある」

廊下ですれ違いながら問われる。
「いけるか」
「来週なら。明日から視察」

近衛騎士から逃げている最中に聞いてみる。
「だめかな」
「駄目だな」

遠くに見えたストロールが軽く手を挙げる。
両手を斜めに交差させて返事した。

「むなしい」
生理現象の処理はすれど、寝室に自分以外の体温はなかった。
気候ヨシ、体調ヨシ、気分ヨシ。
なのに予定だけが合わない。

最初に聞いてみた日からもう一ヶ月半だ。
王様がこんなに忙しいだなんて聞いていない。
執務室の机に指でぐるぐると円を描く。

「おい陛下、急ぎでご署名」
世が世なら即刻絞首刑だ。不遜な恋人が遠慮なしに踏み込んでくる。
こんな風に顔を合わせたって、どうせ仕事の話しかできないんだろ?

「はいはい……で、今日は?」
「マル」
マル。
書類に丸をつけて、署名して返す。

書くのは名前だけでよかったかもしれない。
確認しようにもペンを紙から離した瞬間に回収されてしまった。
ストロールの顔を見ると、心なしか頬が緩んでいた。
もしかして。

「明日は!」
「休み!」
ついに来た!
真顔でぱぁん、と互いの手の平を合わせて打ち、爆速で仕事を片付けた。

食事は軽めに、でも栄養の豊富なものにした。
風呂の最中に事の流れをイメージしておいたし、久々だけどなんとかなるだろう。
がっつきすぎないようにだけ気をつければいい。

ベッドに腰掛けて恋人を待つ。
いつもは気にならない大袈裟な天蓋が意味を持っているような感じで、なんだかモヤモヤする。
爪やすりを持ったり脇机に置いたりしていると、ドアのほうから音が聞こえた。

「お待たせ」
バスローブを身に纏ったストロールが浴室から出てくる。
え? バスローブ?
「なんでバスローブ?」

口が開きっぱなしになる。
白いふわふわの大きな男がのしのしと歩いてきて、どかっと隣に腰掛ける。
「早くしたかったから」
「なんて?」

「これならすぐ脱げるだろ」
合理的なのに、効率が悪い。
昼に約束して、一度家まで取りに戻ったのかと思うとおかしくて仕方なかった。

「ムードが大切だ、なんて真面目ぶってくどくど言ってたのは誰だっけ」
からかってやると、ストロールはちょっと不機嫌そうな顔をしていた。
黙ったままごろりと横になって布の重なった場所を引き、肌を見せつけてくる。
誘惑に乗って胸に手を当てると、湯上がりのぬくもりを感じた。

「今日のところは忘れてくれ」
「そうする」
体に乗って鼻をすり合わせる。
かわいいから、もういいや。

「久々で準備大変だったね」
「まあ、うん」
「手伝えれば良いんだけど」
「それは無理だって! 気持ちだけ受け取っておく」

頬に労いのキスをして、分厚い衣をするすると脱がせていく。
ボタンも無いし、長い脚の途中で布が引っ掛かることもない。
いつもこれなら楽だろうなとか、だけど今日だけかもとか、余計なことが頭の中に浮かぶ。

「胸、する?」
「あとで良い」
二人して小さく笑う。
少しくらい急いだって罰は下らないはずだ。
調合しておいた潤滑剤を手で温め、指に纏わせて奥に向かう。

「触るよ」
とんとん、と中指で後ろの門をノックする。
行きつ戻りつ上下に撫でれば襞がほろりと綻んで、甘くじゃれついてくる。
初めて触れた夜は本当にかたくなで、顔を青くして息もできなくなっていたのに。
何度も肌を重ねてすっかり許された今は、深い呼吸とともに受け入れてくれている。

不思議なこともあるものだなあ、としみじみ枕の端を見た。
顔を見るな、穴も見るなと口酸っぱく言われているせいだ。
「なあ、何考えてる」

「ストロールのこと」
空いたほうの手を銀の髪に差し込んですいてやる。
ふかふかの奥にある肌は、少し汗ばんでいた。
「ふ……そっか……」
盗み見た両目が、満たされたように弧を描く。

「痛くない?」
「気持ちいい」
中にある膨れを優しく擦れば吐息混じりの声が上がって、軽く突いて指を抜こうとすると引き留めるように肉が吸い付いてくる。
粘着質な水音だけが響いて、頭がぼうっとしてくる。

「今、前いじっててもいいよ」
苦しそうに勃ち上がったストロールのものを撫でると、びくんと震えて先走りが出てきた。
「お前の、入れてから」
首を横に振って苦しそうに答える。

無意識なのか腰を使って入れた指を追いかけてくるし、無防備な脚がどんどん広がっていく。
見るなと言われても見せつけられているような状態で、どうしたらいいんだ。

追いつかれないように指を抜き、二本揃えて挿す。もう離すまいと襞が強く包み込んでくる。
中を探っているほうの腕にストロールの両手が擦り寄ってきて、誘うように撫でられる。
早く。早く挿れたい。
けど、痛い思いはさせたくない。

「な、もう平気だって」
囁かれても乗らない。まだ、このくらいじゃ入らない。
心を無にして中を捏ねる。
縁を広げるように円を描いて、奥の肉を揉み込むと腰を激しく震わせて、前からだらだらと液を漏らしていた。

「いく、から、早く欲しい」
「もうちょっと待って。こっちも我慢してる」
欲しいことなど、右手に感じる熱さで十分わかっている。
言葉よりももっと強く求めて、切なく締め上げてくる。

「好き。したい」
「待てって」
気持ちだけが先に進んで、久しぶりの体が追いついていない。
まだ突っ張っている箇所をなだめるように触る。
「優しいとこ、すき。だけど、痛くしてもいいから」

「あの、さぁ、もう!」
どっちがお兄ちゃんなんだか! 怒張の硬さを確かめて狙いを定める。
先を当てて進むけど、中途半端なところで止まってしまった。
締め付けがきつすぎて前にも後ろにも行けず、その場で快楽をやり過ごす。

「どうした?」
困ったように見つめてくるストロールに深く口づける。
力加減をしろ、なんて無理な注文だから。
涎で潤んだ唇を吸って舌を絡める。
キスに気を取られて緩んだ隙に、入る限り自身を押し込む。

具合の良いところを探すのに何度か中を突く。
鞘に収まる頃には互いの肉がぴったりとくっついて、音がしなくなっていた。
抗議するように縋ってきた大きな手から力が抜ける。
軽く達したようで、腹には白いものが広がり、目は遠くを見ていた。

自分もそろそろ出そうだ。
本当は中に全部出してしまいたかった。
触れられなかった分を全部注いでぶつけたい。
凶暴な衝動を伝えるように、限界まで奥までじりじりと詰めた。

一気に引き抜くと、悲鳴のような声が響く。
溢れた白濁は思っていたより多く、塞がりきらずにひくつく穴の周りを濡らしている。
「はー……」
温泉に入ったときみたいな、気の抜けた声を出しながらストロールの隣に倒れ込む。

「気持ち良かったか」
「うん。痛くなかった?」
気恥ずかしいのか、返事はなかった。
顔を覗き込もうとすると、見るなと言わんばかりに裸のままぎゅうっと抱きしめられた。
結果は上々だったみたいだ。よかった!
ふふ、と笑って抱きしめ返す。

鍛えられて張りのある肌は、もちもちとして気持ちいい。
赤ん坊になったような気分で二の腕や胸を揉む。
柔らかい感触を楽しむうちに体の力が抜けて、意識が軽くなっていく。

このまま眠ってもいいけど、一緒に風呂に入ってちょっと甘いものでも食べて──と夢想していたら、腹に熱くて硬いものが当たった。

「まだいけるか……?」
異常な速さで回復したストロールがこちらの体に跨がる。
下半身にずん、とした肉の圧を感じた。
無理だ。
比喩とかではなく、本当に骨が折れる。

ばちんと激しくストロールの太ももを叩くが、びくともしない。
「重、っ! 無理!」
「愛の重さってことで」
歯の間から濡れた舌を見せて笑う。

目尻はふにゃりと垂れ、前髪が落ちきっていつもより幼く見えた。
腰を掴んでどかそうとしたのが逆に火をつけてしまったようで、手で扱いて尖らせたこちらの肉をずぶずぶと腹の中に収めていく。

──新将軍・夜のお色気狼藉!
そんな風聞の見出しが脳裏をよぎるほど艶めかしかった。
動いても良いか、と首を傾げて尋ねられる。
瞳に光はなく、焦点が合っていない。

むっちりとした尻がぶつかる振動と重みが骨盤から全身に広がって頭が揺れる。
これなら鎧戦車のほうがよっぽど静かだ。
乗り物酔いはしないほうだけど、今回ばかりは流石にしんどい。

ストロールはそんなのお構いなしで、前をいじりながら好き勝手に腰を振っていた。
喘いで、良いところに繰り返し擦り付けている。
「降りろ! ストロール!」
普段は絶対そんなことしないくせに。

あとで我に返ったら、なぜ止めてくれなかったんだと叱られるのが目に見えている。
一秒でも早く止めないと、なだめるのに一日かかってしまう。
この瞬間だけ嫌われてもいいから体を止めようともがいてみても、暴れん坊はちらとこちらを見て、また目を伏せてしまった。

揺さぶられるうちにだんだんのぼせてきてそのくせ中をぎゅうぎゅう締め上げられているせいで繋がっているところにも血を持っていかれてもう頭がどっちにあるのかわかりやしない。

「中、出したいよな」
「どけ、って……うぅ……」
いい加減にしろ!
と怒鳴ろうとしたはずが鼻の詰まった情けない声しか出なくて、そのままストロールの中に放つ。
気づけば自分も腰を浮かせて、深く繋がろうとしていた。
鍛えられた丸い尻に指を食い込ませると、脈打つ芯が膨らんだ肉の壁に食い締められる。

「はァ、あ──」
いいところに当たって力が入らなくなったのか、くったりとした体が覆い被さってくる。
汗や汁でべたべたしていて、首筋が獣くさい。
「馬鹿! 本ッ当に馬鹿! 反省しろ!」

重たい羊を左右に揺らしてぬるぬるのモノをなんとか引き抜き、べちんと尻を叩いてやる。
それと同時にびしゃ、と体に温かいものが掛かる。
透明でぬるま湯のような、それにしては人のにおいが強すぎる液体が、勢いよく降り注いだ。

「あっ、あ、あ、え⁉︎」
「ちょっと待った! 拭くもの!」
アカデメイアにある像のように両手を振ってベッドの上をまさぐるが、使えそうなものは掴めなかった。

「布探すから、ちょっとずれて」
肩をノックして声を掛けてみる。返事はない。
それどころかまだ新たな快感を拾っているようで、シーツに爪を立てて意味のない音を発している。

「聞こえてる? 拭くもの。取ってくるから、どいて」
さっきより少しだけ大きな声で呼びかけると、黙ったままの重い体がようやくもたもたと退いていった。

ふー、と息を細く吐いて部屋の灯りをつける。
激しくしている内に吹っ飛んでいたらしいバスローブをベッドの端から回収して戻ると、肩まで真っ赤にしたストロールが背を丸めて震えていた。
両手は濡らした箇所を隠すようにシーツに置かれている。

そんな風にしたってもう遅い。
全部見たし、全部覚えてるし、ほとんど体に浴びたんだから。
「……大丈夫?」

「ぁ……ごめ、ごめんなさい……」
髪の毛はぐしょぐしょで額にぴったりと張り付いており、見開かれた目の周りは涙で濡れて真っ赤だった。
耳も首もぎゅっと血の集まった色をしていて、ただ顔色だけが青ざめている。

誰よりも器用で誰よりも不器用な男が、王都で一番大きなベッドに座って泣いていた。
「変なの」
涙と汗をおさえてから、潮を拭う。

幸い体を置いていなかったところは無事だった。避けて横になれば、まだ手足を伸ばして眠れそうだ。
乾きはしていないが、びしょ濡れからは脱したから及第点ということにしておこう。

でも、この湿ったシーツをそのまま洗濯係に渡すのは気が引けた。
「もう寝ようか。起きたら一緒に洗濯しよう」
四つん這いで布の乾いているところに向かおうとすると、横から急に手を取られる。
バランスが崩れて倒れ込み、追ってきたストロールに捕まった。

「俺のこと、嫌いになったか」
「なんで? 好きだよ」
嫌いだなんて、一度も言った覚えはない。
まだ涙の溢れる目尻に口づける。
額と額をこつんと当ててもう一回、好きだよと呟く。

頬に少しずつ赤みが戻ってきて、乱れていた呼吸も整ってきた。
「明日洗うなら、まだしたい」
「駄目。しない」
「なあ、もう我慢するの嫌だ」

求められるのは嬉しいけど、身動きが取れないように腕で拘束してくるのはやめてほしい。
寝るって言ってるだろ、耳たぶを舐め回すな。
引き剥がそうとした手を軽く払われる。
頭突きでもしてやろうかと身を捩っても、びくりともしない。

「まだやれるよな」
相手を侮って安い挑発をするのはストロールの悪い癖だ。

上に下にぐるぐる体勢を変えてその瞬間でいちばん気持ちいいところを探り合う。
体がくっついたまま汗も混ざりきって、肌がひりつく。
肉がぶつかって骨まで響く感覚さえ快感に置き換わる。

どっちがどこから出したかわからない体液が毛に絡んで乾き始めていた。
喉が渇いても水を飲む暇さえ与えられない。

何回やったのか、途中から数えるのをやめた。
終わりにしたい。
まぶたを閉じると、ぼんやりと白く光る階段が見えてきた。これ以上やるのはまずい。
「も、いいッ?」

「もうだめだけど、まだする」
組み敷いた大きな体が、未練がましく腰を揺らす。
「おしまい!」
「うー……」
だめだ。どう見てもだめ。

人とは思えぬ体力も、煮崩れてこんな甘えたになるのも想定外だ。開けてはいけない扉を開いてしまった。
文字通り精根尽き果てて抜こうとすると、散々擦った肉の道が未練がましげに絡んできた。
引き抜いたあと軽く達したのか、長い鳴き声を上げる。

肌を拭こうとしても、がっちり抱きつかれているせいでちっとも進まなかった。
ほてりの引いた白い肌のあちこちに、噛んで吸って引っ掻いた痕と闘いの中で負った傷が混ざって赤く咲き乱れている。

「お風呂は?」
「あした」
今、何時だ? 重い体を起こして辺りを見渡す。
部屋の中は真夜中より光が増してうっすら白んでいた。
鳥の濁ったやかましい声が頭にがんがんと響く。

「もう今日だよ、今の時間だと」
「ん、ねる……」
「うん、寝ろ。寝てくれ」
まず寝たい。
べたべたのストロールに薄い毛布を被せる。

寝て起きたら、この毛布も洗濯しないと。
ベッドの上はどこももまだらに湿っていてシーツに触れたところがひんやりした。
自分の体にも毛布を掛けて横になる。

満足そうに眠りに落ちた恋人の頬は、つやつやと輝いていた。

「ぎゃっ!」
近くの悲鳴で目が覚める。
何があったのか起き上がって確かめたいのに、頭と体がうまく繋がらない。
首と目だけなんとか動かしてみると、乱れ羊がうつぶせで呻いていた。

「ぁ、がっ……腰が……あ……」
自業自得だ。声を掛けようにも喉が乾ききっているから、一旦放っておこう。
シーツを這って水の入ったポットを掴み、少し離れたところから直に口へ注ぐ。

ああ、生き返る。
ストロールの分もコップに注いで手渡してやると、そのままぐっとひと息に飲み終えた。
あー、とかうー、とか意味のない音を二人でぐだぐだと鳴らしてまた横になる。

「休み明け、平気そう?」
「多分。一応、動ける」
窓の外を見ると、日はすっかり昇りきっていた。
洗濯するなら、今起きないとまずい。
休みはもう半分終わっているんだから。

それよりも先に風呂に入るんだった。
べたべたとカピカピが同居している体をなんとかしないと。
「さあ頑張るぞ、っと」
ベッドから降りようと、床に足をつけてえいやと立ち上がる。
両腕を上に伸ばして軽く反ったその瞬間──
自分の腰にも雷がびしりと走ったのだった。

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