(パロディ)スが人魚
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「森で歯が歩いててさ」
王子は不思議なことを言う。
湖のほとりに来るたびそんな話をしては、ひとりで笑っている。俺は上半分こそ人の姿であったが、残りの身が魚であって返す音を持ち合わせていないからだ。聞き取ることはできるし、興味深い話ではあるので身振り手振りで反応してみせる。
「初めて君を見たとき、驚いたんだ。人の頭をした人魚がいるなんて思わなかった」
彼が知るのは魚から人の脚が生えて、靴まで履いている姿らしい。外の世界はずいぶんと広そうだ。想像してみたらなんだか落ち着かなくなって、己のかたちを確かめるために近くをざっと泳いで回る。
「綺麗」
岸辺に立つ王子が目を細めてつぶやく。そのことばが指すのは、澄んだ水や上がったしぶきのことだろう。きっと自分は歩く歯や靴を履いた魚と同じようなものだ。
どうせ、いつものように日が沈む前に帰ってしまう。離れたくない、と伝えることもできないまま。
「またね。いつか声を聞かせて」
美しい人は恋の呪いを囁き、まばゆく光る剣に乗って遠くへ滑っていった。
